バッドジンクス×シュガーラバー
通話を終えたらしい久浦部長が、スマホを耳から離して不意にこちらを振り向いた。

印象的な力強い瞳と視線が絡み、またもや心臓が大きくはねる。

私はほとんど反射で、その眼差しから逃れるように顔を逸らしていた。



「あ……っの、私、先に戻ってます」



ふたりに向かって一度深々と頭を下げ、そのままくるりと踵を返す。

紙袋を片手に早足でオフィスに向かう私の耳に、かすかだけど「部長、何か小糸さんが怯えるようなことでもしたんですか?」と軽い調子で茶化すえみりさんの声が届いた。

歩みは止めないまま、私は罪悪感で下唇を噛む。

……違う。部長は何も悪くない。

だけど私は、こうすることしかできない。

先ほど一瞬だけ交わった久浦部長の強い眼差しを思い出し、早鐘を打つ胸に片手を添えて吐息を漏らす。

ついさっきまでは、あんなにも弾んだ気持ちでスイーツを食べていたのに。今の私は、きっと真逆の沈んだ顔をしているはずだ。

自業自得のくせに自分の行動が誰かを不快にさせている事実がつらくて、紙袋を持つ手に力がこもった。

一体いつまで──私は、こんなことを続けなければならないんだろう。

答えの出ない疑問が浮かぶけれど、考えても無駄なことだとその思考を振り払う。

そうして私はうつむきがちのまま、自分を守る(よろい)代わりのメガネを押し上げた。
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