バッドジンクス×シュガーラバー
「結構痛かったけど、まあなんとか。なんか最近、こういうケガ多いんだよなあ。実は俺、呪われてたりして」



笑い混じりのその言葉に反応して、肩がはねる。

資料を胸に抱く腕に力がこもり、その内側ではドクドクとうるさいくらい心臓が激しく脈打っていた。

後ろに立つ私の動揺を知る由もないえみりさんが、呆れた様子で片手を細い腰へと当てる。



「なーにが呪いよ、ただのウッカリでしょ。デスク戻ったら絆創膏あげる」

「お、サンキュ」



ニコッと牧野さんが笑顔を見せ、えみりさんも「仕方ないな」とでも言いたげな笑みを浮かべながら肩の力を抜いた。

けれどもそんなふたりの後ろに控える私は、逆に表情を強ばらせて再び視線をパンプスのつま先に落とす。



『実は俺、呪われてたりして』



話した本人にとっては深い意味のないただの軽口が、深く、私の胸を抉る。

……ごめんなさい。ごめんなさい。

声に出すことなく、心の中で何度も繰り返した。

牧野さんは、何も悪くない。

もし呪われているのだとしたら……きっとそれは、私の方だ。

“あの人”を──……実の父親を、大変な目に遭わせてしまったあのときから。

私はずっと、呪われている。
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