俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない

(なぜ、兄さんを見て照れているんだ)


誰に、何を隠すのか。

紬花の随分と思わせぶりな素振りと言葉に、ほんの僅か、兄に懸想しているのではという考えが過ってしまえば、全ての色を塗りつぶす黒い染みのような不安がじわじわと広がっていく。

そうでなないという否定の声を聞きたくて、秘密にする理由を問い質したい気持ちに駆られるが、ぐっとこらえて紬花から視線を外した。

しかし、ポーカーフェイスがあまり得意ではない陽の眉が不機嫌そうに寄っているのに気づいたあゆみが、兄弟に漂う刺々しい空気を察してわざと明るい声を発する。


「社長~? あんまりゆいちゃんを困らせないであげてくださいね。お祝いなんですから」


おつまみに頼んだバーニャカウダの大根を指で挟みながら窘めるあゆみに、博人は「そうだった」とおどけて笑う。

博人もまた、紬花の言葉に隠れた本音が何であるのかを気にしていた。

もし、自分のことでその滑らかな頬を染めたというのなら、陽に勝利したことになる。

いつも冷静な眼差しで自分を見る弟の悔しがる姿が拝めるのだ。

だが、ここで無理強いをして紬花に嫌われては元も子もない。

本心が顔に出ないように笑顔を貼り付けたまま、博人は芳醇な香りを放つワインを味わった。




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