俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない

しかし、”今日限り”という思いは、時間が経つごとに陽の中で変化を遂げていった。

カラオケで披露された歌声はお世辞にも上手いとはいえないもので、けれど、初めての経験に笑みを漏らすゆいかの姿は微笑ましく。

夕刻に訪れたファミレスでは、ドリンクバーの前でどれから飲もうかと悩み、何がオススメですかと見上げる瞳は可愛らしくて。

帰宅ラッシュで賑わう駅の改札口で別れる頃には、もう一度会えないかという想いが生まれていた。

そして、それはゆいかも同じだったのだが……。


『それじゃ、気をつけて帰れよ』

『はい。ありがとうございました』

『ああ。いつか、残りのやりたいことが全部できるようになるといいな』

『できるように頑張ります』


会いたいという四文字を互いに口にすることなく、別れてしまったのだった。



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