ママですが、極上御曹司に娶られました
「あら天間町ですか」

 お弁当販売の店舗は小さいながらも、市内と隣接市に五店舗ある。セントラルキッチンの工場が本社横にあるので、メニューをあらかじめ絞っておき、店舗では保温をしたお弁当を販売している。量り売りのサラダや惣菜もある。この簡易なスタイルがウケて、アケボノごはん株式会社は市内で人気のお弁当屋さんになったのだ。できたてと遜色ないおいしさを、待ち時間なしで提供できるのは利便性が高い。
 まだまだ五店舗を運営するので精いっぱいだけれど、定期契約でお弁当の配達も少しずつ始めているし、地元密着の優良企業だと私は思っている。

「そうそう千華子ちゃん、駅前店舗も人が足りなくなるの。パートさんが出産で抜けるのよ。もしかしたら、一時的に穴埋めに行ってもらうかも」

 事務がメインの仕事でも、営業も手伝うし、手が足りないときは店舗の販売員も務めている。

「かまいません。保育園が近いから、朝は直行させてもらえると助かりますけど」
「いいわよ、全然。新ちゃんとゆっくり朝ごはんを食べてきて」

 この会社の人はみんな優しい。私がシングルマザーであることを知っていて、いろいろと気遣ってくれる。仕事の面でもそうだし、新にお古の洋服をくれたり、お菓子をお裾分けしてくれたり、優しい心配りをたくさんもらっている。
 私は朝の業務を済ませ、ロッカーに用意してある店舗の制服に着替えた。エプロンを持って、オフィスを出る。店舗までは自転車だ。


 桐枝千華子、来週で三十一歳。
 未婚、子どもひとり。アケボノごはん株式会社に契約社員として勤務。

 これが今の私の全部だ。
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