ママですが、極上御曹司に娶られました
 十四時まで店舗でお弁当販売を担当し、それから自転車で本社に戻った。
 店舗に出かけてしまうとその分仕事は滞る。ここからは追加の業務を頼まれないことを祈りつつ、猛スピードで残務を片付けた。

 十七時に仕事をあがると、自転車に跨り急いで保育園へ向かう。これもいつもの流れ。
 しかし、今日はちょっと様子が違った。保育園に入るとほっぺたに絆創膏を貼った新がいたのだ。

「どうしたの? それ」

 驚いて聞くと、新より先に担任の鈴元先生が説明を始めた。

「お友達とちょっと取っ組み合いになってしまいまして」

 引っ掻かれたのか。しかし、私は新が怪我したことには怒らず、おそるおそる先生に確認する。

「あの、相手のお友達は……」
「健太郎だよ! 僕のこと引っ掻くから、僕も引っ掻いてやった!」
「新くん!」

 悪びれず説明する新に先生が怒った声を出す。やはりそうか。健太郎くんは新の仲良しだ。顔を知っているのでフロアを探すと、奥でブロックで遊んでいる姿を発見。健太郎くんのほっぺたから首にかけてガーゼがくっついている。どう見ても新より大きな傷だ。

「申し訳ありません。新がやり返してしまったんですね。健太郎くんの親御さんにお話しないと」
「いえいえ、それはこちらが説明します。ふたりを引き離すのが遅くなってしまったのは私どもなので。本当にご心配をおかけしまして申し訳ありません」

 この『ご心配をおかけしまして』の謝罪は保育園ならではだなと思う。謝ってしまっては全責任が保育園になってしまう。些細なことでクレームをつけてくる保護者もいるせいか、保育園の受け答えはいつも歯がゆく慎重だ。でも、保育園にお世話になりまくっている私はクレームをつける気もない。
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