基準値きみのキングダム


「なんっで、姉ちゃんは、そうなるんだよ」

「奈央?」

「風邪のときくらい、もっと頼ればいいのに」

「もう十分頼ってるよ?」

「……そーですか。んじゃ、俺と京香は学校行ってくるから」

「行ってらっしゃい、気をつけてね。ごめん、迷惑かけて……」

「別に。姉ちゃんがいつも俺らにしてること、してるだけ」




くるりと背を向けて出ていった奈央の背中がぐっと大人びて見える。

……ほんと、どっちが年上なのかわかんないな。




私がお姉ちゃんなのになぁ。


しっかりしなきゃいけない、風邪なんか引いている場合じゃないのに。

不甲斐なくて、しゅんと心が沈む。




風邪をひくのなんて、学校を休むのなんて、いつぶりかな。

体は弱くないはずなんだけど……。




奈央と京香、ふたりの足音がぱたぱたと玄関を抜けていって、ガチャンと鍵の閉まる音がして、ひとり残されたベッドの上、天井をぼんやり見つめる。



ぞわっと体を風邪特有の悪寒が走って、眉をひそめると、がらんどうのアパートは狭くて小さいはずなのに、なんだか宇宙のなかにひとりぼっちで放り出されたような心細さが襲いかかってきて────。




気のせい気のせい、と唱えてぎゅっと瞼を下ろして、うだる熱のなか、暗闇に意識を手放した。




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