基準値きみのキングダム



私が握って引き止めた手に、今度は深見くんの側からきゅっと力がこもる。



それから、深見くんは顔を覆っていた手を下ろして、観念したように笑った。

それはもう、甘く。




「帰らない、ここにいる」

「ほんとっ?」

「ほんと。杏奈が寝るまでここにいるから、安心して目瞑っていーよ」




深見くんがいてくれることに、ほっとして。


すると、さっきまでは気にならなかったのに、こんなことならもっと部屋を綺麗にしておくんだった、とか、今日ずっと寝てるから汗くさいかもしれないファブリーズくらいしておくべきだった、とか、いくつもの反省が頭によぎる。



そんな私の内心など、深見くんはつゆ知らず。

まだ赤いままの耳を、繋いでいない方の手で扇ぎながら。




「杏奈さー、風邪ひいたときのが、よっぽど饒舌じゃん」




自分でも、そう思うよ。
自覚はちゃんとある。


そもそもこんなわがままを言うなんて、風邪をひいていたとしても、私にとってはありえないことだ。





「────別に、いつもそれでいいのに」





深見くんが呟くのと、傍にいてくれる深見くんの存在に安心しきった私が瞼を下ろしたのは、ほとんど同時。



繋いだ手をぎゅっと握って離さないまま、今日いちばん深い眠りに落ちていった。





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