基準値きみのキングダム



「変なことじゃねえよ」



体をひねって脱走を試みるけれど、深見くんに手首を捕らわれる。

強くはないけれど、しっかりした力で。




「俺は、ずっと本気で言ってる」




たしかに本気の声で言われて、余計、胸が苦しくなった。


王子さまなら王子さまらしく、お姫さまを好きって言ってよ。

それがおとぎ話のハッピーエンドなんだから。



私だって、もっと私がかわいかったら────……。




スカートの裾をぎゅう、と握る。

深見くんは手首の拘束をといて、低く優しくかすれた声で、囁いた。




「なあ、杏奈の本音を聞かせてよ」




真摯な瞳から顔を背けて、逃げる。




「……ごめん、なさい」




それだけ言い残すのがやっとで、隙を見て、たっと駆けてその場を去った。

ごめんなさい、ごめんなさい。




わかっている、ほんとうは。


弱くてだめだめなのは、私の心だ。






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