基準値きみのキングダム


𓐍
𓈒




心が重くて身動きとれなくても、時間まで一緒に立ち止まってくれるわけじゃない。


気がつけば文化祭は目前に迫っていて、昼休み、ファッションショーのリハーサルをするからと体育館に集められた。



今、ここにいるのは女の子だけ。



文化祭当日も、男子の部と女子の部は午前と午後に分けて開催するから、リハーサルも男女別々で行うんだって。




当日の流れや更衣するスペース、立ち位置などを服飾部の人たちに細かく教えてもらう。


それらを頭のなかに叩き込みながら、ぼんやりと自然に見つめてしまうのは、上林さんの背中だった。




つやつやで柔らかそうなブラウンの髪、長い睫毛にきゅるきゅるの瞳、まっしろな肌に、細い腰、すらっと伸びた手足。



鈴の音みたいな声に、甘い笑顔、仕草のひとつひとつまで女の子っぽくて。




……私も、上林さんみたいだったらな。

羨ましくてたまらない。




そんなことをじめじめと考えているうちに、リハーサルは終わって、みんなわらわらと体育館の出口向かっていく。


その流れに乗ろうとすると、鈴の音の声に呼び止められた。





「ちょっと、杏奈」




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