基準値きみのキングダム
♡
𓐍
𓈒
心が重くて身動きとれなくても、時間まで一緒に立ち止まってくれるわけじゃない。
気がつけば文化祭は目前に迫っていて、昼休み、ファッションショーのリハーサルをするからと体育館に集められた。
今、ここにいるのは女の子だけ。
文化祭当日も、男子の部と女子の部は午前と午後に分けて開催するから、リハーサルも男女別々で行うんだって。
当日の流れや更衣するスペース、立ち位置などを服飾部の人たちに細かく教えてもらう。
それらを頭のなかに叩き込みながら、ぼんやりと自然に見つめてしまうのは、上林さんの背中だった。
つやつやで柔らかそうなブラウンの髪、長い睫毛にきゅるきゅるの瞳、まっしろな肌に、細い腰、すらっと伸びた手足。
鈴の音みたいな声に、甘い笑顔、仕草のひとつひとつまで女の子っぽくて。
……私も、上林さんみたいだったらな。
羨ましくてたまらない。
そんなことをじめじめと考えているうちに、リハーサルは終わって、みんなわらわらと体育館の出口向かっていく。
その流れに乗ろうとすると、鈴の音の声に呼び止められた。
「ちょっと、杏奈」