基準値きみのキングダム
だめだ、深見くんといると、涙腺がばかになる。
そんなんじゃないはずなのに、泣き虫になってしまう。
「……っ、ふ、ぅ」
ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちて、教室の床を濡らす。
深見くんは、困ったように笑った。
「なんで泣くんだよ」
「……っ、うぅ」
「黙ってるなら、嬉し涙だって期待するけど、いいの?」
言い返す言葉はない。
否定する必要もなく、こくんと小さく頷いた。
「……いい、よ」
だって、合ってるんだもん。
正解だよ。
涙で潤んだ瞳で見上げたら、深見くんはじわりと頬を赤く染める。
「あー……、杏奈、それは可愛すぎ」
深見くんの放った言葉がびっくりするくらい、すとんと心に入ってくる。
深見くんの世界では私がかわいいの基準だって言うから、深見くんの言う『かわいい』はもう否定できない。
私の世界の基準もつられてずれて、そしたら、重くのしかかっていたコンプレックスがうんと軽くなったような気がした。