基準値きみのキングダム



𓐍
𓈒



春、3月。


冬の寒さがやわらいで、代わりに川沿いの桜並木のつぼみがふくらみ始めた頃。




「いらっしゃいま────近衛くん?」

「え? 杏奈ちゃん? なんでここにいんの?」




のれんをくぐって現れた近衛くんに目を見張ると、近衛くんの方も驚いた顔をしている。


まさか、私に迎えられるのは想定外だったんだと思う。


それもそのはず。




「恭介は?」




ここは、「おとうふ 深寿庵(みことあん)」。

恭介の実家のお豆腐屋さん。



ここが恭介の家族のお店だと知っているひとは、ほんとうに少ないけれど、近衛くんはそのうちのひとりらしい。




さすが仲良しなんだね、とこの前、恭介に言ってみたら「そんな仲良くねえよ、あいつが絡んでくるだけ」としかめっ面をしていたけれど、きっと、あれは照れ隠しだ。





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