基準値きみのキングダム


何を考えているか全く読み取れない顔で、深見くんが言う。


きょとんとする私に、深見くんはふっと口角を上げた。




「だから秘密な。これは、俺と森下だけの」

「ひみつ?」

「そう。約束」



深見くんが小指を差し出してくる。



もともと、誰かに言いふらすつもりもなかった。


そんなことしたって意味ないし、そもそも言いふらすような相手もいない。



でも、もしこの情報が広まれば、深見くん目当てのひとたちがどっとお店に押し寄せてくるだろう。

だって、そりゃあ一目見たいと思うよね、王子様のレアな作務衣姿なんて。

ただでさえ、学校のない週末には、深見くんに会えないんだから。




みんなが知りたい深見くんを、みんなが知らない深見くんを、私だけが知っている。



それは、少しの罪悪感。

それと同時に、少し優越感を覚えてしまった。




頼まれなくても、誰にも教えたくない。

私だけの秘密にしておきたい────そんな、どこから湧いてきたのかもわからないよこしまな気持ちを胸に、深見くんの小指に自分のそれをそっと絡めた。




「わかった。……内緒にする」




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