基準値きみのキングダム
「ん、ありがと」
絡んだ指が、あっけなく離れていく。
「で、森下、何買ってく?」
「え」
「うちに買い物に来たんだろ」
「あ……うん」
そうだった。
深見くんが現れた衝撃で忘れかけていたけれど。
ええと……、とショーケースに視線をすべらせる。
どれも美味しそうで目移りしちゃう、困ったな。
「深見くんのおすすめは?」
「料理に使うならこれ。こっちの絹豆腐は冷奴で食べるのが美味いよ」
「パパが冷奴が好きだから……ええと、その絹豆腐をひとつ。それから、これってこの前深見くんのお弁当に入ってた?」
「そう。よく覚えてんな」
指さしたのは、がんもどき。
覚えていたのは、それがほっぺが落ちるほど美味しかったからだ。
そういえば、あのとき深見くんが得意げにしていたのは、自分の家の商品だからだったんだ、と遅れて気づく。
それであの表情だったのかと思うと……なんだそれ、かわいいな。