基準値きみのキングダム
そう、ここは図書室。
放課後ともなると、ひとはまばらで、静かで、そういうところが気に入っていた。
教室はいつも誰かの声がしている。にぎやかで楽しそうな、誰かのうわさ話でもちきりで────そういうノイズは、ここにはあまり届かない。
落ちつくから、好き。
テスト前に勉強してから帰りたいときとか、今日みたいに頼みごとを引き受けたときは、図書室に来るのが私のなかの定番だった。
「ああ、俺、図書委員。で、今日は当番」
図書委員?
一瞬、きょとんとする。深見くんにその肩書きはあまり似合わないような気がした。なんとなく、“図書委員” は地味に思えて。
────けれど、そうだった、と思い出す。
図書委員って人気のない委員会なの。各クラス、ひとりずつ必ず選出しないといけないのだけれど、昼休みや放課後の当番が面倒だからと手は基本的に挙がらない。私のクラスでも例外なくそうで、結局くじ引きで決めることになったんだっけ。
それで、そのはずれくじを引いたのが深見くんだった。
たしか、深見くんは3年連続はずれくじを引き当てて、これが3年目の図書委員なんだとか。もうベテランの域だ。
そんなことをなぜ知っているかというと、深見くんがそれほど話題の中心にいるから。わざわざ聞き耳を立てなくとも、深見くんの情報は勝手に耳に飛び込んでくる。
「でも今日、暇なんだわ。仕事もないしー、ってなわけで、手伝わせてくんない?」