売れ残りですが結婚してください
翠の口から恋という言葉が出てくるなんて想定外だったのか唯の驚きは手に持っていた写真を落とすほどだった。

「え?私は……幼稚園だったかな?同じクラスのハル君」

「……そんな小さな時に?」

翠は驚きを隠せなかった。

「でも本当にすごく好きだって思ったのは中学だったかな〜1こ上の弓道部の先輩。弓をひく姿に心を打たれたって感じ?」

両手を胸に当て目を閉じる唯を翠は瞬きしながら見ていた。

そして自分が誰かに恋をしたことがないことに自分はロボットなんじゃないかと思ってしまうほどだった。

「ねえ、どうしたの?まさか……好きな人ができたの?」

驚く唯に翠は下を向いたまま首を横に振る。

「じゃあどうしたの?やっぱり許嫁のこと?」

翠はしばらく黙っていた。

何から言えばいいのか整理していたのだ。

そして顔を上げ唯の方を向くと「恋も知らないで結婚してもいいのか不安になって」と小さな声で呟くように言った。

「それって誰かに何か言われたから?」

翠はシュウのことを唯に言うべきか悩んだ。

今日言われたことを唯に全て話したらなんと言うだろうか?

許嫁がいるにも関わらず男の人と会っていると言ったら怒られるだろうか?

シュウと食事をしたことは浮気に値するのだろうか?

恋愛に疎い翠の頭はキャパオーバーしていたが、唯のアドバイスまで理解できるか不安でもあった。
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