求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
灼けつきそうな瞼を閉じて、大きく息を吐く。すると涙が頬を伝って流れ落ちた。

止まらない。止めなくてもいい。
誰に見られたっていい。雨のせいにすればいい。

雨って結構悪くない。いいとこもあるよ……。

霧雨に打たれながら、温泉旅行以来初めて心から笑えた。

「よし、行こう」

地面に落とした声は、さっきよりずっと明るさを帯びている。それに勇気を貰えた。

大好きな人が待ってる。会いに行こう。
逃げずにちゃんと話をしよう。

絶対別れないって泣いてやる。
だって嫌なんだから仕方ない。

往生際が悪い? そう思われたっていい。
大人の女は黙って身を引く? 誰が決めた? 知るか、そんなもん。

散々当り散らして、それでもダメだったら母に電話して愚痴ってやる。いつも好き勝手言う母に泣きつく。うんざりするくらい甘えてやる。

ヒロ君? どこの誰だ、ソレ? 私は娘だ。あなたが腹を痛めて生んだ子供だ。甘えさせろ、たまには!

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