求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~

霧雨に頬を濡らしながら、意識の奥にそっと留めた声に耳を澄ませる。声が蘇って鮮明に思い出せた。何度も頭で反芻しては勇気を貰えたから。

『家族って勝手だよね。遠慮なく好き勝手なこと言うし。それがいいところでもあるんだけど。だから、中野さんも言っちゃえばいいよ』

上原課長が言ってくれたから、私は以前より図々しくなった。

実家に呼ばれても気分が乗らないと行かない。行きたい時は行く。

母の言いなりにはならない。そのせいか喧嘩することも多くなった。

でも前よりずっと母と距離が縮んだ気がする。母も文句言いながら楽しそうだ。

母は図々しい。私には特に。

それに腹が立つこともあるけど親子だから好き勝手言い合える。母は甘えてるんだ、私に。私よりずっと年上で大人だけど、母だって誰かに甘えたい。


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