求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
手を引かれるまま、私はおずおずと彼の膝に頭を乗せる。初めて体験する膝枕はタオル越しでもやや硬くて、上原課長の匂いがした。

ドライヤーの熱風が心地いい。
だからか普段より饒舌になる。誰も知らない、決して話せないと思った思いが口からついて出た。

「幼い頃、雨が嫌いでした。雨が降ると楽しかった時間が終わって何もなかったように誰もいなくなる……。それが嫌で隣にいる父と母の手を握ったんです……」


雨は涙に似ている。

そう感じて人前で泣けなくなった。
私は強くない。人一倍寂しがり屋なだけ。

そんな自分を知られたら大事な人が離れていく。急な雨に降られたようにいなくなる。それが寂しくて怖い。

誰にも言えなかったこと。
でも本当は誰かに聞いて欲しかったこと。

蓋をしていた思いを打ち明けたら堰を切ったように止まらなくなる。

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