求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
でも本当は頑張り屋じゃない。無理してるだけ。虚勢を張っているだけ。

髪に触れる温もりが、優しい呼びかけが、嬉しいのに上手く笑えない。

そんな私の胸の内を察しているんだろう。
上原課長は口を結んで押し黙り、私の髪を撫でてくれる。その内に彼はすくっと立ち上がってリビングを後にした。

すぐさま戻ってきた彼はドライヤーをコンセントに差し入れる。先程は気づかなかったが、ドライヤーは据え置きタイプにもなるらしい。

毛並みのいいラグの上にドライヤーをセットして、上原課長が柔らかい声音で私を誘う。

「中野さん。おいで」

ラグにきちんと正座した彼が目尻を下げて微笑する。膝にタオルまで掛けてだ。

「えっ、あの……」

これは膝枕をしてくれるってこと!?

歴代の彼氏にねだられてやったことはある。でも、その逆はない。

目をうろうろと泳がせて戸惑うと、上原課長が目尻を下げていたずらっぽく笑う。

「ほらっ、早く」

「わっ……」

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