求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
誰が発注してるのか分からないが、まずいと噂があるのだ。

気遣い屋の上原課長が苦笑するくらいだ。今日も変わらずまずかったんだろう。

まずいと分かってて食べるのって嫌だよねぇ。可哀想に……。

「お風呂湧いてますよ」

「ありがとう」

上原課長の自室は、私が居候している部屋の隣だ。

廊下を進み、彼が部屋に入る。窓を覆うカーテンはベージュ。デスクにベッド、経営書がずらりと並ぶ書棚はすべてダークブラウンで統一されている。

家具屋のカタログようなオシャレな部屋に私も続いて入る。と、ネクタイの結び目に手を掛けつつ、上原課長が振り向いた。

「中野さん」

「はい。なんでしょう?」

「ごめん。着替えたいんだけど」

「あっ、すみません……」

着替える、と単語を耳にして、固めたはずの決意がぐらんぐらんと揺れ動いた。
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