リリカルな恋人たち
「それより……僕の煩悩と、この正に今刻一刻と縮まっているクリニックのお昼休み時間の相関を、反比例なグラフにして説明していいかな?」
「要らん。ってか、手のひらぎゅってしたら、運命変わるって加瀬くんが言ったじゃん。わたしはもう過去になんか囚われない、新しい皺を刻みたいの」


抱きついてまとわりついてくる加瀬くんの腕を無理やり引き離して、わたしは彼の手と、自分の手を重ねた。
一本一本交互に指を絡めて、やみくもにぎゅっと繋ぐ。

黙ってされるがままだった加瀬くんは、子どもみたいにわがままに手を繋いだわたしを、穏やかな眼差しで見下ろした。


「友ちゃん。やっぱそれ、なしにしない?」


わたしは耳を疑う。


「え?」


これがなし、って……。手を繋いじゃダメなの?

新しい運命を、加瀬くんと切り開きたい、って希望を持っちゃダメなの?

とたんに不安になる。
物思わしげな顔で恐る恐る見上げると、加瀬くんはにっと柔和に微笑んだ。


「だって、あと三カ月で三十一なんでしょ?」
「う、ん……?」
「その占い、僕と当たったことにしようよ」
「へ? ど、どういうこと……?」


言ってる意味が分からず釈然としないわたしに対し、満更でもないといった表情で加瀬くんは言った。


「友ちゃんのその三十で結婚する運命に、僕も参加さしてよ」


訝しげに見返すわたしにお構いなく、ゆるゆると緩む笑顔で続ける。


「恋人なんてすっ飛ばして、結婚しようよ。 体の相性いいんだし、ね。いいでしょ?」


お互いの舌の表面の感触や、温度を確かめ合うような濃厚なキスを交わしながら、ああ……わたしって、こういう加瀬くんに昔も弱かったんだなってことを思い出した。
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