リリカルな恋人たち
「昔、あたるって有名な易者に言われたんだ。三十で結婚する、って。」


わたしはそれを信じていた。
だって姉が行ったとき、全然偏差値足りなかった志望校に合格するって言われてて、誰も信じていなかったけどまさかのストレートで合格したんだ。

それに友人関係で悩んでた友達も、先生に恋してた友達の友達も、家族関係に嫌気がさしてた友達の友達の友達も。

正味、眉唾だったけど、わたしは信じたんだ。


〝三十までお互い独り身だったら、俺ら結婚するか〟


あいつと、あんな約束しちゃったもんだから。


「あと三ヶ月で、三十一なんだけどね」


あたらなかった、ってこった。
今日、証明されたじゃんね。

体の力を抜き、わたしはだらんと腕を垂らした。


「それって、手相? 易者って」
「なんかいろいろ。手相も見てもらったけど、誕生日とか」


ベッドの脇に所在なくぶら下がるわたしの左手を取ると、彼はぎゅーっと握った。


「皺の形が変われば、運命変わるかもよ」


ワクワクしたような声で言って、目尻や鼻に皺を寄せてクシャッと笑った。
枕に片耳を沈めて、子どもみたいに幸せそうな顔をして……。

わたしは握られた手を持ち上げる。

ちっとも節っぽくなんかない、とても男の人のものだと思えない綺麗で色素の薄い手の甲や、さっきわたしのなかで動いた細長い指先をつぶさに見て。

こだわってた自分がバカバカしくなった。


〝三十までお互い独り身だったら、俺ら結婚するか〟


あるときは時限装置のように、またあるときはお守りのようにわたしのなかで形を変えて、ずっと心に抱えてたものが、風船みたいにぱん! って割れてすっきり軽くなった気がした。

わたし、けっこう平気なつもりでかなり執着してる悲惨な状況だったんだなって、今になって客観的に思った。

運勢第一位は水瓶座、運命的な出会いがあるでしょう。

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