マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

《三》





「おかえりなさい」

「ただいま。遅くなって悪い。青水はもう食べたのか?」

「はい。お風呂もお先に頂きました。ご飯用意しておきますので、先にお風呂に入られたらどうですか?」

「ありがとう。そうさせて貰うよ」


階段で矢崎さんと別れて、高柳さんとミーティングルームで二人きりになった時、少しのだけ二人の間に沈黙があった。

いつもと変わらぬ無表情が怒っているように感じてしまうのは、矢崎さんとの遣り取りを見られた気まずさからだろうか。

(無表情はいつものことなのに…)

何か言われるかとビクビクしながら黙っていると、高柳さんは何も言わず打ち合せが始まった。

その打ち合わせの後、自分のデスクに帰ってからスマホを見ると、矢崎さんからメールが入っていた。
彼と付き合っていた頃はまだ今みたいにSNSが盛んではなかったから、連絡手段はほとんどがメールだった。別れてから携帯アドレスは変えていない。

(まどかに、『携帯変えた方がいい』と、言われてたのに……)

親友からのアドバイスを『そこまでしなくても大丈夫よ』と流したのが悔やまれる。

【18時半に会社の最寄駅で待ち合わせな】

一方的なメールに、正直腹が立った。

(行かない、って言ったのに)

腹立ちついでに、お弁当の玉子焼き取られたことも思い返す。

【他に予定があるので行けません。
今後は仕事のお話は社内メールでお願いします】

と返信し、スマホの電源を切っておいた。面倒だけどアドレスを変えよう。
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