マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

自室のベッドに横になり、ぼんやりと物思う。

(昼間のこと、やっぱり何も聞かれなかったわね)

矢崎さんとの一幕を高柳さんに見られてから、結局それに関して何も触れられなかった。

あの時の会話を聞かれたかどうかは分からないけれど、単なる同僚にしては近すぎる距離に、高柳さんが何も思わなかった訳はない。

(“模擬結婚生活”なんて言いながら、詰まるところ、ただの同居生活だもの……)

彼にとってこの同居生活は、今後見合いを勧められない為の“既成事実”なのだ。“妻”という言葉の前に“仮”や“偽”すら付くことはない、ただの同居人の私に、彼はまったく興味を持っていないのだ。

改めてそれを認識したら、胸の奥がじくじくと疼くように痛む。

(“模擬結婚生活”なんて都合のいいネーミングに騙されたら駄目よ。お互いの目的を果たしたら、三か月後には円満に元通り。また一人の生活に戻ること、忘れないようにしなきゃね……)

明かりを落とした部屋の薄暗い天井を眺めながら、そう自分に言い聞かせると、私はそのまま瞳を閉じ、眠りについた。





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