マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
キョロキョロと周りを見渡す。他の人よりも頭一つ飛び出している背の高い彼は、見付けやすいはずなのに全然見つからない。

いったいいつの間にはぐれてしまったのだろう。ランチの店を出てからすぐは隣を歩いていたはずなのに――

(そうだ、電話してみればいいんだわ)

バッグの中に入れっぱなしだったスマホを出して、彼に掛けてみる――が、彼の方も通話中だった。

(仕方ないわね、もう少ししたら掛け直してみよう)

携帯電話もあるし慌てなくてもそのうち合流できるはず。こういう時は下手に動かない方がいいだろうと思い、すぐ近くの店の目に着きやすい場所で商品を見ていることにした。

ちょうどその店は、全国各地に店舗を持つシンプルなデザインが人気の雑貨店で、私もここの商品を多数愛用している。
手前にあった商品に手を伸ばした時

「おーみ、さん?」

懐かしい呼び名に顔を上げると、声を掛けたと思われる男性と目が合った。
一瞬目を丸くしたその人は、すぐに笑顔になりこちらに近付いてきた。

「おーみさんですよね?ご無沙汰してます、ESSでお世話になった堂本です」

教えて貰った名前に憶えがあった。にこにこと人好きのする笑顔に、当時の事が甦る。彼は私が四年生の時に入会してきた三つ下の後輩だった。
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