マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「危ないぞ」

「え、っと…ダメでしょうか?」

「指も一緒に茹でるならいいが」

「いやです……」

私の前のまな板には、ピーラーで皮を剝いたじゃがいもがコロンと乗っている。
右手に包丁を持った私は、今まさにそれを切るところだったのだ。

高柳さんが恐ろしいことを言うので、うっかり想像してしまい鳥肌が立つ。
我ながら料理の才能がないことが情けなくなり、へにょっと眉を下げてじゃがいもを見下ろしていると、ふわりと背中が温かくなった。

「抑える方の手はこうだ」

「う、」

私の体を後ろから包み込むように高柳さんの両腕が回り、私の両手に大きな手が重ねられる。私の左手の上から重ねた彼の手が丸くなる。

「左手は“猫の手”だ。そう、それでいい」

後ろから伝わる熱と、耳のすぐ上で囁かれる低音。
重ねた手から私が小さく震えているのが伝わっているはずなのに、高柳さんはそのことには何も言わず、“熱心に”料理の指導をする。

「包丁を持つ手に無駄に力を入れ過ぎるな」

そう言いながら今度は包丁を持つ右手に重ねた手で、じゃがいもを切るように動かす。

「ほら、出来ただろ?」

スパン、と小気味よく切れたじゃがいもが、まな板の上でコロンと転がるのを、蒸気が出そうなほど熱くなった顔で見ているしかなかった。

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