マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
どれくらいそうしていたのか。
すぅっと体から重みが消え、目を開くと、高柳さんが私の上から退()いていた。

「た…高柳さん……?」

離された体の隙間から冷たい空気が入ってきて、それがひどく寒くて感じ、思わずぎゅっと大きな体にしがみついた。

「青水……」

何か言いたげな声を無視して、彼の胸にしがみついたまま頭を振る。

「いや…、はなれちゃだめ……」

自分が何をしたいのか分からない。けれど、ただ本能のままに行動していた。

「色々あって心も体も疲れているだろう。今日はもう大人しく寝た方がいい」

幼子に言って聞かせるような口調に、胸の奥からもやもやと何かが湧いて出てくる。
それが彼の優しさだと頭では分かっているのに、どうしても気持ちにブレーキがかけられない。

「いやですっ、いかないで…そばにいて」

「青水……抱いていいのか?」

私を見下ろす切れ長の瞳に、見たこともないほどの熱が籠っている。
匂い立つほどの色香を纏ったその姿に、私はくらりと眩暈を感じた。

「いや、駄目だろう……俺は弱みに付け込むような抱き方はしたくない。でもこれ以上ここにいたら、俺は自分を止められなくなる」

「『付き合っている相手としかしない』って言ったくせに……」

「――それは、どういう」

「あの人のことは『ゆきちゃん』で、私のことはずっと『青水』のまま……。常務のお嬢さんとお見合いしたのに……あんな可愛い女の子と仲良くして、お泊りも! 私なんて私なんて……ただの風よけで、“ゆきちゃん”が本命のくせにっ!」

要領を得ない言葉を、何も考えず一気にしゃべった。
そのせいなのか何なのか、くらくらと目が回っている。涙が滲んでいるせいで視界もぼんやりするし、さっきまで彼に触れられていた体が熱いのに、背中にぞくぞくとした寒気が走る。

「どういうことだ…」

低い声がそう呟くのを聞いたのを最後に、私の意識はプツンと切れた。




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