マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
仕事を一緒にし始めてすぐに、彼女の能力の高さに驚かされることになる。
指示したことは正確かつ迅速に仕上げてくる。その上、こちらの要望以上の仕上がりになっていて、俺は早くも今回の仕事が成功に終わるだろうことを確信していた。【TohmaBeer(トーマビア)-Hopping(ホッピング)】の企画を考えたのが彼女だということも頷ける。先日会った時は『少しぼんやりしたところのあるお嬢さんだな』と思っていたが、『隙がない仕事が出来る女性』という百八十度違う印象が加わった。

それからの日々は、彼女は一切俺との“お見合い”を口にすることなく仕事だけに専念していた。仕事とプライベートを混同することを嫌う俺にとっては、最初に懸念していたようなことはまったく起こらず、俺の中の青水雪華の評価は『真面目で仕事熱心な社員』というふうに位置づけられた。

そんなある日、ホールディングスでの会議の後に常務に呼ばれていた俺は、帰りがおそくなってしまった。そのまま帰宅しようと思ったが、提出書類などをチェックしてから帰ろうと思い、職場のデスクに寄ることにした。

エレベーターから降りて廊下を歩いていると、窓の向こうに閃光が走るのが見えた。台風が近づいているせいで大気が不安定なのだろう。

(荒れる前に早く帰らないとな)

そう思いながらオフィスに入ると、一か所だけ明かりが点いている。

『誰か残っているか』

声を掛けながら近づいたその時、ひときわ眩い閃光が辺りを照らし、次の瞬間鼓膜を揺らすほどの轟音が響き渡った。

そのあとすぐに聞こえた悲鳴に駆け寄ると、両手で耳を塞いだ彼女が床に蹲っている。慌てて近寄ろうとしたその時、

『いやっ、いやよ!置いていかないでっ……お母さん!』

そう叫んだ彼女は、そのまま意識を失った。

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