マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

食後、ソファーでコーヒーを飲みながらひと休憩していると、隣に座っている雪華が俺を見上げて言った。

「今日は沢山、ありがとうございました」

「ん?」

「映画もランチも全部出していただいて……夕飯の材料も」

申し訳なさそうに眉を下げる雪華。
いつもそうだが、一緒に出掛けると自分の分は自分で出すと言う。一緒に暮らしているときからだから、もうかれこれ半年近く経つのにいつまでも慣れることなく『出してもらってばかりで申し訳ない』と申し訳なさそうにする彼女に、その謙虚さは美徳だが少し寂しいと思う。

(もっと甘えてほしいと何度も言っているのにな)

そう思いながらも、「俺がしたくてしていることだから」と口にする。

「そんなことよりも、今日は俺の作った料理なんかで良かったのか?せっかくだから人気のレストランとか、雪華の行きたい店に行っても良かったんだぞ?」

「せっかく……?」

小首を傾げる彼女は、なんのことか分からないといった雰囲気だ。

「せっかくだろ?ホワイトデーなんだから」

「ああっ!」

今知りました、という顔で驚いた後、「そういえばそうでした…」と呟いている。
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