マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
第五章 鉄壁上司との同居

《一》





台風が過ぎ去った翌週。
台風がどんな被害をもたらしても仕事は待ってくれず、それどころか臨時休業で滞ってしまった業務を片付けるべく、私は週明けから忙しく動き回っていた。


台風十七号はあの日の昼前に関東に上陸し、東日本を北に縦断した。
暴風にあおられ転倒によるけが人が出たり、民家の屋根や作物を駄目にしてしまうような被害はあった。人命を奪うほどのものではなかったのは、不幸中の幸いだろう。

これまで台風が上陸することの少なかった東日本では、あまり台風への危機感を持っていなかった人も多くいるだろう。私だってその一人。

台風が秋雨前線を刺激したせいで起こった落雷と、暴風による電柱や電線被害に被害があり、停電は長引くということだ。こうして自宅を含む広範囲の地域が停電になるなんて思ってもみなかった。

台風一過から数日経った今でも、停電復旧の進捗や台風への備えへのニュースをやっていて、私も含め、被害に遭った方たちが一日も早く元の生活に戻れることを願いながら、毎朝のニュースを見るのが日課になっていた。

会社のビル自体への直接的被害は無かったが、この台風の影響で変更を余儀なくされた予定は多々あった。

その一つに、私たちが手掛けるプロジェクト【TohmaBeer(トーマビア)-Hopping(ホッピング)】の全体会議の日程があった。


「出席者全員とはもれなく連絡がついたのか?」」

「はい。先週末までに連絡の取れなかったさいたま支店の担当者からは昨日、首都圏第三支店の方からは今朝一番に連絡を頂きました。さいたまの方(かた)は今週金曜日の会議への主席は出来るそうですが、第三の方(かた)はご実家が被害に遭われたそうで、有休を取ってそちらにいっていらっしゃる為、別の方が代理で来られるとのことです」

「そうか。分かった。」

私の報告を受けた高柳さんは神妙にうなずくと、手元にあるノートパソコンの画面に視線を落とす。
彼のデスクは私達の島の向かいの窓側にあるが、期間限定の出向とデスク不在のことが多い為、ノートパソコン以外何も置かれていない。彼のデスクは無駄も余分も寄せ付けない彼の鉄壁な仕事スタイルを表しているかのようだ。

上司への報告を終えた私は、通路を挟んだ自席へと戻った。

< 84 / 336 >

この作品をシェア

pagetop