異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「なぁ、メグ。あんこを使った和菓子を作ってくれ。小豆は、それだけではただの豆だ。他の豆と大して変わらないが、珍しい菓子があって、それに使われるあんこが小豆となれば、小豆を他国にも売ってゆける」

「え、あの、売ってゆけるって。和菓子にそんな力はないと思いますけど」

「ある。小豆の栽培を拡大できれば新しい産業になるぞ」

コンラートは、メグミになぜ新しい産業に拘るのかを話した。

この大陸では、領土を広げて富を奪うために、長い間国同士で戦争ばかりをしていたという。これはメグミも町の人から聞いたこの世界の歴史だ。いわゆる戦国時代だったのだろうかと考えた。

その結果、各国があまりにも疲弊したので、互いに条約を結んで一時的な小康状態になった。それが今だという。

「この凪いだ時期に国の基盤を強固にしたい。どの国の為政者も同じことを考えているだろうな。農業や酒蔵などはもちろん力を入れるが、それはどこの国でもやっている。他にはないものを作って他国から自然に人が流れてくるようにしたい。流通の中心になれば、あらゆるところへ富が流れ込む。その結果、働く場所も増える」

「そうかもしれませんが……」

着眼点は悪くないと思う。

そもそも小豆は、この異世界に存在しないのではないかとメグミは考えている。

栽培方法も、彼女が持っていたたった一冊の本から習っただけで、たとえ豆を持ち運んで行っても栽培まで到達するのはかなりの年数が必要だろうし、気候が合わなければできない。

ここにしかないものは、経済における武器だ。けれど人が欲しがるものでなければならない。彼はそのための菓子だというのか。
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