異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミの脳裏に浮かんだ疑問は、コンラート自身が答えてくれる。

「手がかかるのは歓迎だ。元々、どうにかして労働者に仕事を与えたいと考えていた。小豆の栽培は俺の望みに適う。小豆の栽培は俺の望みに適う。害虫や特有の病気を防ぐために、すでにたくさん雇い入れているぞ。テツシバへ来ていた女の子の父親も、労働者を呼び込んだときに集まった一人だ」

「そうですか。あの子のお父さんはそちらへ出稼ぎに行ったのですね」

暗く淀んだ地域から家族ごと脱出できるよう祈る。下層階級の中には、逃げて来た罪人などではない普通の人たちもいて、彼らの一番の問題は仕事がないことなのだ。

「あとは小豆が売れるかどうかだ。売れれば、小豆をこの国の名産にできる。名産になればもっと大々的に広げて、人も多く雇えるってことだ。経済を回せる。外見を整えただけのいまのままでは、富める者の農園だけで食っていかなければならない」

とうとうと語るコンラートの顔を、いつの間にか意識せずに凝視していた。メグミはしみじみといった口調でく。

「国王陛下なんですね……。コラン様は王都をふらふらしている人だったのに。そういえば、誰も国王だと気が付きませんでした。黒獣王の名が隠れ蓑になっているんでしょうか。二つ名の印象はすごく強いみたいです」

「そうだ。その先入観を利用して出歩く。式典などで国王の顔見せをする広場も王城内にはあるが、きらびやかなマントを羽織って城壁の上から見下ろす王の顔を見ていても、町中をふらつく俺と結びつける者などいなかったな。黒髪でもだ」

彼女の髪は、他にはない菓子を売っている店で黒髪の娘がいると噂されることも宣伝になった。けれど彼の場合は、二つ名を強調するものになっている。

「先入観を利用した以上、それに縛られることもある。仕方がないことだと分かっているさ。まともな政策をしても、すぐに覆されると考える者は多い。それくらい、前の王たちの悪評は高いわけだ」

町でもそうだが、王城内でも先入観で彼を見る者が多いのかと胸がきりっと痛んだ。
< 132 / 271 >

この作品をシェア

pagetop