異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「おはよう。お前は明日の夜会で、あんこを入れた生菓子を幾つかと、金箔を載せた羊羹を出す予定になっているが、変更はないか?」

総責任者だから、どの料理が出されるのか事前にすべて把握している。もちろんデザートも。彼には見本を作ってすでに出していた。

「はい。いまのところ変わりありません」

「そうか。ではついでに言っておくが、私は、メインのデザートテーブルにティラミスを出すつもりだ。――金箔を載せて。お前の羊羹は、その横に並べる」

「――! 金箔、ですか!」

「そうだ」

ドキドキと鼓動が早くなった。

――同じような色合いで、同じように金箔を載せるの? ベルガモットさんなら、きっと素晴らしいティラミスを作るわ。派手でおいしい……。羊羹は派手さに見劣りがするかもしれない。これって、意図的にぶつけてきた?

驚いた。メグミはのけ反ってベルガモットを凝視する。

ベルガモットは彼女の考えたことを察した。抗議したいと語るメグミの視線に応えて、普段は無口と言っていいほどなのに、いまは彼女に向かって説明をする。

「私の後ろ立ては、グレイ公爵閣下だ。それは知っているな? お前の後見であるジリン公爵とは政敵になる」

「はい」

何を言いたいのだろう。こういう政治的背景を、厨房には決して持ち込まない人だったのに。
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