異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「はっきり言うが、今回、グレイ公爵の意向でおまえをつぶすつもりだ」

「……っ!」

「ただし、材料や菓子に細工をしようとは思わない。私には料理人としての誇りがある。だから真っ向勝負をする。これで潰れるようなら、所詮、その程度ということがはっきりするからな。お前の和菓子がどれほどのものなのかも分かる」

並べて置いて誰も食べなければ、その程度でしかないから去れということだ。ジリン公爵の面目も丸つぶれになるだろう。

メグミは肩が上下するほど大きく呼吸をする。

唖然とした彼女をそこに置いて、ベルガモットは自分がするべき仕事に戻った。今日は、前日泊まりの客人のために国王主催の小規模な晩餐がある。

高い背の彼が淡々と動いてゆくのを視界に入れながら、メグミは考える。

――みんなが楽しくなれるのがお菓子なんだもの。勝つ必要はない。でも、ただの添え物になるのはいやだ。

和菓子職人としては卵の殻にひびが入った程度という自覚はある。けれど、ベルガモットが持つ職人としての誇りを、メグミも持っているつもりだ。

――他の和菓子に切り替える? ……いいえ、今からでは間に合わない。

今回の分以外の材料も、今後使う予定でここに運び入れていた。

しかしそれは、近々コンラートに作ろうと思っていた“ぜんざい”に入れる白玉粉や、まだ何に使うかはっきり決めていない抹茶などだ。
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