異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
大きな蓋が鉄の棒で開けられると、まだ熱を持った黒い灰が舞いあがる。形ある物はなにもないのが見て取れた。メグミは茫然と立ち尽くす。
舞い上がった灰が下りてくる。思わず両手を開いてそれを受けとめた。
黒い欠片のような灰が手の上に幾つも降りかかり、彼女がそれを握りしめると、粉々に砕けてゆく。
「あ……あああ……」
握りしめた両手で顔を覆う。
「大丈夫かね? 今朝の分は全部燃やしたから、こちらへ持ち込まれた物は何も残ってないんだよ……」
すまなそうに言われる。メグミはガクリと土の上に両膝を突いた。
「…………」
声も出ない。涙がこぼれるわけでもなく、心が霧散してしまいそうになった。
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