異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
彼女の尋常ではない様子を見た担当者が、「料理長に知らせてくるから」と走って行った。メグミはその場から動けない。
歯を食い縛って空を見上げると、澄んだ青い空に吸い込まれるような気がした。
――思いを込めて手を合わせてきた。それでも、燃えたのは、板。家族として過ごしてきた日々も、思い出も、私がいる限り消えてしまうことはない。それにまだテツシバが残っている。あそこは両親の形見の店だ。
ではテツシバが無くなったらどうするのか。
『お前は和菓子を作るんだろう?』
温室から帰るときに運ばれながら聞いた彼の声が――記憶の底で眠っていたコンラートの声が聞こえたような気がした。
土に膝を突いていたメグミは自力で立ち上がる。二人が見ているのだから、立ち上がらないと心配させてしまう――と考えた。
するとそこへ声が掛けられる。
「煤だらけだぞ、メグ」
どんなときでもこの声だけは耳に入るだろう。そしてきっと、身体の奥底へ落ちてゆくのを驚きの眼で眺めるのだ。
「どうしてここへ。国王陛下がいらっしゃるような場所ではありません」
「焼却場の番人がベルガモットに知らせて、奴が走って俺に教えに来た。メグが泣いているってな。俺も走って来たぞ。……泣いてはいないのか?」
「泣いているところなど、そう何度もお見せしたくはないです」
メグミが微笑すると、コンラートはそれ以上何も言わずに上着のポケットからハンカチを取り出した。彼女はすんなりそれを受け取り、顔や手の平をごしごしと拭く。
泣き笑いの顔になっていたかもしれない。しかも煤だらけだった。
歯を食い縛って空を見上げると、澄んだ青い空に吸い込まれるような気がした。
――思いを込めて手を合わせてきた。それでも、燃えたのは、板。家族として過ごしてきた日々も、思い出も、私がいる限り消えてしまうことはない。それにまだテツシバが残っている。あそこは両親の形見の店だ。
ではテツシバが無くなったらどうするのか。
『お前は和菓子を作るんだろう?』
温室から帰るときに運ばれながら聞いた彼の声が――記憶の底で眠っていたコンラートの声が聞こえたような気がした。
土に膝を突いていたメグミは自力で立ち上がる。二人が見ているのだから、立ち上がらないと心配させてしまう――と考えた。
するとそこへ声が掛けられる。
「煤だらけだぞ、メグ」
どんなときでもこの声だけは耳に入るだろう。そしてきっと、身体の奥底へ落ちてゆくのを驚きの眼で眺めるのだ。
「どうしてここへ。国王陛下がいらっしゃるような場所ではありません」
「焼却場の番人がベルガモットに知らせて、奴が走って俺に教えに来た。メグが泣いているってな。俺も走って来たぞ。……泣いてはいないのか?」
「泣いているところなど、そう何度もお見せしたくはないです」
メグミが微笑すると、コンラートはそれ以上何も言わずに上着のポケットからハンカチを取り出した。彼女はすんなりそれを受け取り、顔や手の平をごしごしと拭く。
泣き笑いの顔になっていたかもしれない。しかも煤だらけだった。