異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
テツシバの近くまで来ると、メグミがアルマを見送っているのが見えた。
――着物という衣服だったな。良く似合っている。
結っていた髪に手をやり、彼女はその場で括り紐を解いたり髪飾りを取ったりして、長く垂らした状態にした。それが風に揺れる。
美しいと思う。
戸口のところまで行ったが、影に隠れていた。出てゆけないのだ。
――この俺が、何というざまだ。
自分を叱咤激励するも、もしも彼を見たメグミが眉を潜めたらと考えると、どうしても動けなかった。
密かに歌が聞こえてくる。
「だんご、だんご……」
懐かしい。そのうち、なぜか泣いているようなくぐもった声になったので思わず覗いてしまう。楽しくなると歌が出ると言っていたのに、ぼろぼろと泣いていた。
すると、メグミは言った。
「コラン様――逢いたいよ……」
なにかを考える前に身体が動く。粉だらけの手の甲で目元を擦るのを止めたい。目に粉が入ってしまうではないか。
彼は、早足でメグミに近づくと、驚いた顔を向けたメグミを抱きしめた。
< 264 / 271 >

この作品をシェア

pagetop