異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
足踏みをしている間に日々は飛ぶように過ぎてゆき、春祭りになった。この機会に招待した客人も大勢いたので、王城では持てなしに大わらわだ。ベルガモットは、城と町を往復しながら、役目をこなしていた。
――俺も行きたい。
しかし、騒ぎになるのは目に見えていたので、なんとか踏みとどまる。
客人たちがこぞって、お忍びだと言って外へ出るのを指を咥えて見ているのも大層な胆力を必要とした。
新たに右の手となったエディが彼の見張り番だ。ジリンは要領もよく町へ見物に行ってしまっている。
太陽が沈み始め、客人たちも戻ってきて『疲れたから休みます』と各々の貴賓室へ引っ込むか、または帰国の途に着くかしたころになってようやく、エディの隙を突いて外へ出た。
後片付けに奔走していたベルガモットが彼を見つけて、ものすごい形相で建物の影へ引っ張って来るなり言う。
「陛下っ。城へお戻りくださいっ。まだ城の者たちが祭りの後片付けで残っています。気づかれてしまいますよ」
「暗くなってきているから、分かりはしない」
「……それはそうかもしれませんね。その恰好なら、まさか黒獣王だとは……そうか、裏通りへ行ってもらえませんか。その方が目立ちませんし、テツシバはすでに撤収しています。メグミはテツシバにいますよ」
その言葉を聞き終える前に、突き動かされるようにしてコンラートは裏通りへ入った。目立つと思うから走るのは押さえなくてはならない。
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