異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
異世界へ来ても自然の理からは逃れられず、親である以上、サユリの方がメグミよりも先に旅立ってしまう。そのとき一人になったメグミが寂しくなって誰かと一緒になることはあるかもしれない。

けれどいまではない。第一、相手がコランというのは、まったく考えられない。

笑えば愛嬌があるとはいえ、彼は隙の無い言葉や動作、醸し出される迫力を全身から発散して、対面にいるだけの者にも威圧感を与える男だ。町を散策している様子が、ふらふらしているように見えるとはいえ、あの目。

今も、メグミを見てくる視線は、ただの興味本位でお菓子のことを訊いているとはとても思えない。なにかの目的があって近づいてくるのは間違いない。

――……ただの勘でしかないけどね。お客様なんだし、来てもらえるだけで嬉しいのも確かだしね。でもね、母さん。絶対、庶民じゃないよ。身分違いも、きっとけた違いだと思うわ。

自分の家のこととか家族のこととか、サユリが一生懸命聞きだそうとしたが、欠片なりと口に出さない。匂わせることさえなかった。

ただ、どれほど高い地位を持つ貴族の家の息子でも、兄弟が多いと邪魔者扱いをされるらしい。だから外を出歩くのだと言われると、そう言う気もするから不思議だ。

――笑った顔が屈託なくてわざとらしい感じがないんだよね。でも、コラン様なら、家の乗っ取りの一つや二つ、その気になればできそう。そういう、いざとなれば怖いこともできてしまうような雰囲気もあるし。……ただの錯覚かなぁ。

あくまでも、受け取る印象だけの話だが、たくさんの客を見てきたメグミの人の評価は、それほど違ったことはない。
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