異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「メグミ。……メグミ!」

名前を呼ばれて、はっと顔を上げるとサユリが笑っていた。

「メグミは本当に和菓子職人なのねー。いま、頭の中でたくさんの菓子が回っていたんでしょう? そういう状態になると周囲のことなんてすっかり飛んじゃうのよね」

「ごめん、母さん」

「いいのよ。父さんもそうだったから。あのね。メグミに結婚なんて余計なお世話だってこと、私だって分かっているのよ。でもね、親は先に逝ってしまうから……」

サユリの視線が位牌の方へふっと流れた。

「母さん。もうすぐ小豆が収穫できそうなんだ。獲れたら、今度は羊羹とか作ってみるから。結婚なんてもっと先でいいよ。だから母さんも、ちゃんと見届けて」

長生きしてほしいという願いを言外に込める。サユリは困った顔をしながらも、ゆっくり頷いてからメグミが淹れたお茶を飲んだ。

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