異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
ベッドへ入っても眠れない。庭から入る月明かりだけの暗い中で、ときおり目を開けてすぐ隣に寝ているサユリの方を見る。

――父さんは、朝、起きてこなかった。

胸がずしんと重くなる。まさか母親も同じようになってしまうとは思いたくないが、夕食のときに話していたことが気になって仕方がない。

――母さんを安心させるために、結婚……するべき? でも誰と? 大体、店はどうするのよ。食事の支度だって、私は、和菓子しか作れないし。

料理ができないことはないが、そういうことをやっている時間があるなら、菓子の新作を考えていたい。

――コラン様は無理だよ、母さん。あの人は、普通の人じゃない。なにかを求めて、必死にそれを掴もうとしている人なんだって。だからすごくいろいろ訊いてくるじゃない。訊いているのは、“和菓子について”だけでしょ。

メグミのことを訊いてはいない。和菓子が珍しくて、どうしてこういうものが突然現れたか、どうやって作っているのか、誰が買うのか、材料は? ――と、情報収集そのものだ。

――“他の人とは違う態度”か。母さん、さすがに良く見てるな。

メグミにとってコランは、恋愛感情とは関係のない特別な人だ。
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