異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
彼女の頭の中に居座っていた濃霧がすぅっと途切れる。思考がしゃっきりと晴れてゆくのが手に取るように分かった。

テツジからまだ職人としての技をすべて譲り受けていない。自分はただの卵だ。

師を失い、父親を失い、まったく違う世界で材料さえ乏しい中で先行きには闇しかなかった――あのとき。

メグミを引き上げたのは、彼の言葉だった。

特別に思わない訳がない。恋とか愛とかではなくて、まさに特別な人なのだ。
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