異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
あまりに激しく戸を叩かれたので疲れ切った顔を出すと、彼は少しだけ開けた戸をばんっと大きく開けて、メグミの顔の高さまで腰を曲げた。しっかり目を合わせて迫りくると、激しく言ったのだ。

「食べたい。作ってくれ。珍しい菓子なんだろう? 突然店ができたと思ったら、買いに来る客がどんどん増えているそうじゃないか。誰の口にも合うってことだな?」

「誰の口にも、かどうかは分かりませんケド。この世界で、和菓子は珍しいでしょうね。他にはないものだと思いますし」

頭の中に霞んでいるような感じで、ぼんやり答えた。

「他にはないのか。ほしい。頼む」

彼はメグミに向かって頭まで下げた。

自分と同じような黒い髪を眺める。どこの誰とも知らない。しかし、強固な意志と存在自体に熱があった。
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