異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
いままで経験したことのない揺れだった。動きが収まると、恵は急いでさゆりのほうへ顔を向けた。哲二も立ち上がってさゆりの方を見る。

さゆりは振り返って店の門口の方を見ているので、恵も哲二もそちらへ視線を移動させた。

「? え? なに?」

目に飛び込んできた外の光景が信じられなくて、恵は思わず口の中で呟いた。

「おい。ここはどこだ?」

「商店街じゃ、ないの?」

哲二が目を見開き外へ出てゆく。その後姿を眺めながら、さゆりが呆然として床に膝を突いた。まるで腰でも抜かしたようだ。

三人家族が店の外に見たのは、商店街のアーケードではなく、青い空と西洋の中世風の街並みと、土が踏み固められた幅のある通りだった。
< 7 / 271 >

この作品をシェア

pagetop