家族の紐帯
卑怯な私がその時一番恐れていたのは、母の報復行為であった。万が一母が暴走した場合、それを止める自信が私にはなかった。そもそも私に母を殴れるだけの正当な理由があるのか。自分のことを棚に上げて人を断罪することが理に適っているのか。確かに祖母の電話を聞いた時は、「一度殴ってやらねば気が済まない。」と息巻いた。あくまで祖母の報復行為を代執行するという目的を果たすには、それが最上の方法であろうことは疑いの余地がない。私はただ、力の弱いおばあちゃんに代わって仕返しをすればよいだけなのだ。
だが、実際に対峙してみると、母を殴るという経験なぞこれまでに一度もなく、元々気の弱い私が冷静に親を殴るということはできなかった。感情に身を任せればあるいはできたかもしれないが、長旅の疲れもあって正直その場から逃げたい気分だったのだ。祖母としては一刻も早く罰を下してほしかったのだろうが、自分の母親を殴るという行為に必然性を感じなくなり違和感を抱いてしまったのだ。また、私の不在中にこれほどまで母の病状が悪化してしまった原因が、私自身にもないはずがないという負い目が、私の手を鈍らせる。
親の目が届かないのをいいことに、散々遊びほうけ平気で留年生活を送る。祖母や母を騙し続けトラブルの後処理をさせる。金銭面から肉体・精神面まで祖母曰く「半殺し」的負担を一手に背負わされた祖母の労苦は計り知れないものがあるが、母に与えた影響もまた、未知数である。母はほとんど胸中の不安を口にはせず心の中にしまっておくタイプなので、何を考えているか分からないことが多いのである。四年で終わるはずだった大学生活が一年半も延長している・・・原因はどこにあるのか、果たして本当に卒業できるのか、就職はどうなる、我が家の将来の生活設計は・・・等一人二階の自室に籠もり布団の中でもんもんと考え込む姿を想像するのは難しいことではない。たとひ私の不行跡の一端が祖母ほどに母に伝わっていないにしても、留年という事実が一つあれば、母のネガティブな鬱的妄想の材料として十分なのだ。いわば病状悪化の真因が私にあるといっても過言ではない。
そんな私が母に手を上げることなどどうしてできようか。母の眼鏡を外し左手を平手打ちの格好で振りかぶったまま何度も自分の正当性を母に説く私。その手は一向に振り下ろされることはない。
だが、実際に対峙してみると、母を殴るという経験なぞこれまでに一度もなく、元々気の弱い私が冷静に親を殴るということはできなかった。感情に身を任せればあるいはできたかもしれないが、長旅の疲れもあって正直その場から逃げたい気分だったのだ。祖母としては一刻も早く罰を下してほしかったのだろうが、自分の母親を殴るという行為に必然性を感じなくなり違和感を抱いてしまったのだ。また、私の不在中にこれほどまで母の病状が悪化してしまった原因が、私自身にもないはずがないという負い目が、私の手を鈍らせる。
親の目が届かないのをいいことに、散々遊びほうけ平気で留年生活を送る。祖母や母を騙し続けトラブルの後処理をさせる。金銭面から肉体・精神面まで祖母曰く「半殺し」的負担を一手に背負わされた祖母の労苦は計り知れないものがあるが、母に与えた影響もまた、未知数である。母はほとんど胸中の不安を口にはせず心の中にしまっておくタイプなので、何を考えているか分からないことが多いのである。四年で終わるはずだった大学生活が一年半も延長している・・・原因はどこにあるのか、果たして本当に卒業できるのか、就職はどうなる、我が家の将来の生活設計は・・・等一人二階の自室に籠もり布団の中でもんもんと考え込む姿を想像するのは難しいことではない。たとひ私の不行跡の一端が祖母ほどに母に伝わっていないにしても、留年という事実が一つあれば、母のネガティブな鬱的妄想の材料として十分なのだ。いわば病状悪化の真因が私にあるといっても過言ではない。
そんな私が母に手を上げることなどどうしてできようか。母の眼鏡を外し左手を平手打ちの格好で振りかぶったまま何度も自分の正当性を母に説く私。その手は一向に振り下ろされることはない。