家族の紐帯
今まで母の横に座り黙って様子を観察していた祖母がやがて静かに口を開いた。
「てっちゃん(私のあだ名である)、もういいはんで・・・。」
その夏、母は20年近くも世話になった病院とは別の、郊外にある新設の大病院へ入院することが決まった。
これまで、母が入院する際は決まって祖母が付き添っていたのだが、今回は私が引率することとなった。私に失望した祖母は、私に母の面倒を任せたようだった。
医師の診察の結果、祖母と私の思惑通り閉鎖病棟への入院が認められた。閉鎖病棟と云っても何も四六時中独房に閉じ込められる訳ではなく、病棟内は自由に移動できる。ただ煙草は一日一箱と制限され、売店での買い物も週一度しか認められない。持ち物も鏡等金属製のものは一切許可されない。前の病院では院内を自由に行き来し、買いたいときは時間の許す限り売店でも近所のディスカウントストアでも思いのまま。煙草も喫みたいだけ喫んで小遣いが無くなれば早朝から祖母に電話を入れるといった始末。これに比すればそれなりに母を黙らせてくれるだろう。
二週間程度の比較的短い入院生活中、面会に訪れる度私は母の様子をつぶさに観察した。投薬の効果や病状の経過、病院内の活動やコミュニケーション等について質問し、日記をつけさせ内容について細かく問い少しでも母の容態と病気再発に至った経緯を理解しようと努めた。
無事に退院してからも模索は続いた。母と祖母との見解には明らかな溝がある。
「病人でなければ分からない。」と主張する母。
「あんたは病人でね。」と反論する祖母。
精神科の医師だって母のようなケースはないと言うぐらいだ。病気に仮託して自分のわがままを押し通しているのではないかと疑うことは日常茶飯事だ。一階で祖母が寝ているにも関わらず深夜から起きて洗濯だの炊事を始める、一ヶ月の小遣い(二万円)を必ず足りなくする、夕食前に間食をしてご飯をしっかり食べない、一日にコーヒーや煙草を何度ものむ・・・。数え上げたらきりがないが、共通していえるのは、何度注意されても同じ過ちを繰り返すことに尽きる。自分がこうだと思ったらそれを絶対曲げない頑固さがあるのだ。その他人の忠告を全く聞き入れようとしない極端な自我の強さ、自分を客観視し認知する能力の欠如、自己抑制能力の欠損こそ病症そのものなのだろう。
「てっちゃん(私のあだ名である)、もういいはんで・・・。」
その夏、母は20年近くも世話になった病院とは別の、郊外にある新設の大病院へ入院することが決まった。
これまで、母が入院する際は決まって祖母が付き添っていたのだが、今回は私が引率することとなった。私に失望した祖母は、私に母の面倒を任せたようだった。
医師の診察の結果、祖母と私の思惑通り閉鎖病棟への入院が認められた。閉鎖病棟と云っても何も四六時中独房に閉じ込められる訳ではなく、病棟内は自由に移動できる。ただ煙草は一日一箱と制限され、売店での買い物も週一度しか認められない。持ち物も鏡等金属製のものは一切許可されない。前の病院では院内を自由に行き来し、買いたいときは時間の許す限り売店でも近所のディスカウントストアでも思いのまま。煙草も喫みたいだけ喫んで小遣いが無くなれば早朝から祖母に電話を入れるといった始末。これに比すればそれなりに母を黙らせてくれるだろう。
二週間程度の比較的短い入院生活中、面会に訪れる度私は母の様子をつぶさに観察した。投薬の効果や病状の経過、病院内の活動やコミュニケーション等について質問し、日記をつけさせ内容について細かく問い少しでも母の容態と病気再発に至った経緯を理解しようと努めた。
無事に退院してからも模索は続いた。母と祖母との見解には明らかな溝がある。
「病人でなければ分からない。」と主張する母。
「あんたは病人でね。」と反論する祖母。
精神科の医師だって母のようなケースはないと言うぐらいだ。病気に仮託して自分のわがままを押し通しているのではないかと疑うことは日常茶飯事だ。一階で祖母が寝ているにも関わらず深夜から起きて洗濯だの炊事を始める、一ヶ月の小遣い(二万円)を必ず足りなくする、夕食前に間食をしてご飯をしっかり食べない、一日にコーヒーや煙草を何度ものむ・・・。数え上げたらきりがないが、共通していえるのは、何度注意されても同じ過ちを繰り返すことに尽きる。自分がこうだと思ったらそれを絶対曲げない頑固さがあるのだ。その他人の忠告を全く聞き入れようとしない極端な自我の強さ、自分を客観視し認知する能力の欠如、自己抑制能力の欠損こそ病症そのものなのだろう。