ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



医師になって伶菜と母親のもとに戻って
彼女達を幸せにする

・・・・そう心に誓って名古屋の高梨の家を離れて東京へ行った俺

でも医大生になって名古屋へ戻っても、
そして医師になっても
同じ名古屋にいるであろう伶菜になかなか再会できなくて

いつか必ず伶菜達を探し出すという気持ちを持ち続けながらも
もうそれは無理なんじゃないかっていう諦めも大きくなっていたその頃の俺は
俺を求めてくる目の前にいる女性を
自分の心の内を見透かされないようにできるだけ優しく、丁寧に抱いた


でも本当のところは
自分を見失わないように自分自身を客観視しながら
ただ求められるがままに自分の欲望を吐き出していただけの
・・・・最低なオトコだった

だからかもしれない

伶菜をどう抱きしめれば
俺の想いがちゃんと伝わるのか
わからない・・・・・

かすかに震える伶菜を
どうしてやったらいいのかもわかってない



『福本さん、美咲に伝えて欲しいことがあるんですが・・・・』


こんな気持ちをどうコントロールしていいのかもわかっていない俺は
福本さんに美咲への伝言を頼んだ。



「本当にいいの?それで・・・」

伝言内容を耳にした福本さんは珍しく眉をしかめる。


『ええ。』

「でも・・・・・」

『じゃ、帰ります。お先に失礼します。』



心配そうな表情を浮かべた福本さんを振り切るように
俺は手短にありきたりな返事だけをして病院を後にした。

そうやって無理矢理、美咲への伝言を頼んだのにも関わらず
やっぱりどうしたらいいのかまだわからない俺は
このままではいけないと
新笠寺駅前に古くからある小さな和菓子屋に寄って鬼まんじゅうを3つ買った。


さつまいもがゴロゴロ入っていて甘くて柔らかいそのまんじゅう
高梨のお袋と一緒に
ベビーカーに乗った伶菜を連れてよく買いに行った・・・・東京には売っていなかった懐かしい味

その頃は白い三角巾を被ったえびす顔の中年女性が接客してくれていたけれど
今日はその女性の息子さんであろう男性が応対してくれた。
けれども鬼まんじゅうを入れてくれた薄茶色の紙袋もふんわりと漂う甘い香りも当時のままで。


優しく抱きしめてあげられそうにない俺が
伶菜に優しくしてあげるには
この味を思い出させてあげるぐらいしか
この時は思い浮かばなかった。


そんな鬼まんじゅうを買った後、少しずつ冷たくなり始めた夜風が吹く中、俺は肩を竦めながら自宅まで歩いた。



『ただいま』


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