ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



その時、伶菜は俺がいた名古屋ではなく東京にいた
先天性心疾患の存在が発覚した胎児である祐希を無事に出産させて、
出産後の難しい心臓手術を行えるのは東京の大学病院だけだったからだ

自らの産科医師としての腕を疑い、彼女の主治医を降りた自分が
彼女にしてやれることはなかった

でもその時、仕方がないんだと割り切れず
ただ心配する
ただひたすら無事であるようにと願う
それが上の空の自分を招いていた

自分がやらなくてはならない仕事に
集中できない
手につかない
産科医師になって初めての経験だった


でもそのころの俺と
今の俺は立場が違う

彼女の傍にいて
そして
彼女の腹の中にいる赤ん坊の父親という立場

してやれることがなかったあの頃とは違う

だから上の空な自分ではいけない
伶菜も気にしてしまうだろうし・・・



じゃあ今、自分がどうすべきか?

それは
目の前にいる自分の担当妊婦さん達を
いつもどおりの平常心できちんと診察すること

きっとそれだ・・


『ちゃんとやります。最後まで自分がすべき仕事を。』



それをやり終えた後、彼女の元へ向かおう

ちゃんと自分のすべきことをやって
駆けつけたんだと胸を張って・・・


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