お前は、俺のもの。

「凪さん。申し訳ないのですが、河野さんの発注データの入力を引き継いでくれませんか?あたし、今日はどうしても残業ができなくて…でも、河野さんには明日朝戻さないといけないんです」

就業時刻三十分前になって、隣の席でキーボードを叩いていた関口由奈が、大きな目をパチパチさせて困った顔をしている。
私は四つ葉のクローバーのチャームのついたボールペンを持って、座ったまま椅子のキャスターをコロコロ動かして、由奈のパソコンを覗いた。
「河野くんの担当ってカフェの改装工事よね。発注リストは昨日受け取っていたのを見かけたけど、入力が多かったの?」

彼女のデスクの上の発注リストの日付は三日前になっていた。
すると、後ろから「なによ、そのリスト」と、綾乃が声を上げた。
「日付が三日も前じゃない!もしかして、入力するの忘れていたの?それに急ぎのものなら優先するべきでしょ?」

彼女のご最もな反応に、由奈は一気に不機嫌モードに入る。
「綾乃さんには関係ないですよね。リストをもらったのは昨日の夕方で、入力する時間がなかったんですっ 」
「昨日の夕方で入力する時間がないとわかっていたなら、そのとき凪さんに言えばよかったじゃない?」

眉間にシワを寄せて由奈を睨む綾乃を、私は「大丈夫だから」と言って宥めた。
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